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福島への帰還を進める日本政府の4つの誤り 北海道道北勤医協 旭川北医院院長 松崎道幸
- 2016/03/14
日本政府の招待で来日した国連人権理事会特別報告者のアナンド・グローバー氏は2012年11月、東電福島第一原発事故の原因、緊急対応、復旧にかかわる諸問題を検討しました。彼は、政府当局者、専門家、学者、市民団体および地域代表者、さらに福島県および宮城県の幹部職員と精力的な会談を行い、翌2013年5月の国連人権理事会で、7項目29施策にわたる日本政府への勧告を含む報告書を提出しました。この報告書の概要は以下の通りです(太字引用者)。
国連「健康に対する権利」特別報告者アナンド・グローバー氏日本への調査 ( 2012年11月15~26日)
•チェルノブイリ事故では甲状腺がんだけが増えたという欠陥の多い調査結果をよりどころにして、日本政府がそれ以外の健康影響が発生するはずがないという立場をとっている事は、極めて遺憾である。(第9段落)
•原爆データでも低線量被ばくでがんが起きることを確認しているにもかかわらず、日本政府が居住可能基準を年間1mSvから20mSvに引き上げていることは遺憾である。(10)
•年間追加実効線量が1mSvを越える福島県外の地域住民に対しても、健康モニタリングを行うべきである。(27)
•チェルノブイリ事故後、内部被ばくを受けた被災地住民の間に、内分泌疾患、血液疾患、心臓病、脳卒中、消化器疾患が増加した。日本でも、特に子どもについて、尿検査でストロンチウムなどによる内部被ばくをモニターする必要がある。(33)
•日本政府が、住民の声を聞かずに、「経済と健康のバランス」をとって避難線量の基準を決めるべきであるというICRPの考えに沿って対策を進めていることは、一人ひとりの市民の健康権を侵す不当な行為である。(47)
•被ばく線量限度を決定する場合、住民、とりわけ放射線に弱い妊娠女性と子どもたちの健康権をくれぐれも侵害する事のないようにしなければならない。汚染されていた地域への帰還は、年間追加被ばく量が1mSv以下となった場合にだけ推奨さるべきである。日本政府は、その間、すべての避難住民が、帰還するかしないかを自主的に判断する上で必要な経済支援を行う義務がある。(49)
•日本政府は、原発をどうするか、避難区域、被ばく限度線量、健康モニタリング、経済的補償額をどう設定するかなどのすべての重要な政策の決定過程に、放射線被ばくに影響を受ける層をはじめとした住民の参加を保証しなければならない。(82)