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福島第一原発原子炉から地上に降り注いだ放射性微粒子の正体を解明 小暮 敏博,山口 紀子
- 2016/02/04
小暮 敏博(地球惑星科学専攻 准教授)
山口 紀子(農業環境技術研究所 土壌環境研究領域 主任研究員)
発表のポイント
•福島第一原発事故で原子炉から放出された放射性微粒子を地上で特定することに成功し、その正体が珪酸塩ガラスであることを明らかにした。
•放射性微粒子の内部構造を観察し、珪酸塩ガラスから放射性セシウムが溶出した可能性を示す痕跡を見出した。
•福島を中心とする地域における放射能汚染の新しい形態を示し、今後の環境中での放射能の動態について有益な知見を与えるものである。
発表概要
福島第一原発事故によってもたらされた福島およびその周辺における放射能汚染は今日でも大きな社会問題である。原発から放出された放射性セシウムの主体はガス化した状態であったと考えられるが、破壊した原子炉の内部から飛来したと考えられる数ミクロン以下の微粒子にも含まれることが、最近の研究でわかってきた。しかしこれまでの報告では、このような“放射性微粒子”は大気中でのみ捕集され、またその主成分や内部構造などはあまり明らかにされていなかった。今回発表者らの研究グループは、この原子炉から直接飛来した放射性微粒子を地上で採取・特定することに成功するとともに、その物質を電子顕微鏡で詳細に解析した。その結果、この放射性微粒子の主体は窓ガラスなどと同じ珪酸塩ガラスでできており、そこに放射性セシウムが不均一に含まれたものであることが明らかとなった。さらにある微粒子には長期間野外で存在することにより、放射性セシウムが珪酸塩ガラスから溶出した可能性を示す痕跡も見られた。これらの知見から、地上に降り注いだこの放射性微粒子、そしてそこに含まれる放射性セシウムの今後の環境中での動態を推定することが可能となり、今後の放射能汚染問題の解決に寄与するものである。