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福島原発事故により放出された放射性微粒子の危険性 ――その体内侵入経路と内部被曝にとっての重要性 渡辺悦司・遠藤順子・山田耕作
- 2014/12/18
チェルノブイリ事故では、事故後2年半が経過した頃から、健康被害が急速に顕在化したといわれている。アメリカの週刊誌『タイム』は、チェルノブイリ事故四周年にあわせて、ウクライナ汚染地区の医師を取材している。その証言は、「過去18ヶ月間に」(すなわち事故から2年半経過したとき以降)、①「甲状腺疾患、貧血症、がんが劇的に増加した」、②「住民は、極度の疲労、視力喪失、食欲喪失といった症状を訴え始めている」、③「最悪のものは、住民全体の免疫水準の驚くべき低下である…健康な人々でさえ病気が直りきらずに苦労している」、④「子供たちが最悪の影響を受けている」というものであった注2。
その経過をたどるように、現在福島第1原発事故から3年半以上が過ぎ、福島と日本各地において事故による健康被害が広範囲に顕在化しつつある。メルトダウンと放射性物質の放出から始まり、内部被曝による健康被害にいたるまでには一連の過程がある。その経路を可能な限り具体的かつ全面的に解明することが、今ほど重要になっている時はない。われわれの論文が「被曝の具体性」(矢ヶ崎克馬氏)を明らかにする共同作業の一環を担うことができ、福島原発事故の放射能による健康被害を明らかにするための一助となれば幸いである。
目 次
1.放出された放射性微粒子に関する主要な研究成果
1-1.予備的考察
1-1-1.放出の諸形態
1-1-2.炉心溶融の温度メカニズム
1-1-3.微粒子形成の条件としての超高温――再臨界
1-1-4.放射性微粒子の諸形態および形成諸過程
1-2.観測時期ごとの研究の概観
1-2-1.事故がピークにあった2011年3月14/15日、3月20/21日に
採取されたサンプルに基づく分析
1-2-2.同じく2011年3月14/15日に採取されたサンプルに基づく分析
(つづき)
1-2-3.爆発後の2011年4月4日から11日までに採取されたサンプルに
基づく分析
1-2-4.2011年4月28日から5月12日までに採取されたサンプルによる分析
1-2-5.2011年6月6~14日および6月27日~7月8日に採取された土壌の調査
1-2-6.事故のピークを過ぎた2011年7月2日から8日までに採取された
サンプルの分析
1-2-7.2012年頃から現在まで:「黒い物質」と呼ばれている黒色の粉塵
1-3.以上から導かれる結論
2.放射性ガス・微粒子の人体内への侵入経路
2-1.タンプリン、コクランによる問題提起
2-2.1969年の日本原子力委員会(当時)の報告書
2-3.内科学および薬学の教科書による肺内沈着の説明
2-3-1.『内科学書』(中山書店)の叙述
2-3-2.吸入薬の使用法についての薬剤師向け教科書の記述
2-4.肺内に沈着した放射性微粒子による内部被曝の危険
2-5.とくにナノ粒子の危険
2-6.放射性微粒子による内部被曝の特殊性、集中的被曝とその危険
2-7.放射線の直接の作用と活性酸素・フリーラジカル生成を通じた
作用(「ペトカウ効果」)
2-7-1.放射線の直接的影響
2-7-2.放射線の間接的影響
2-7-2-1.生物無機化学からのアプローチ
2-7-2-2.医学からのアプローチ
[がんをはじめ広範な疾患を引き起こす]
[心臓疾患]
[白内障]
[精神障害]
2-8.まとめ
3.再浮遊した放射性微粒子の危険と都心への集積傾向
3-1.福島など高度の放射能汚染地域における疾患の増加
3-2.東京圏における放射性微粒子による汚染
3-3.東京圏への汚染集積の諸要因
3-3-1.福島事故原発の工事による放射性物質の放出
3-3-2.焼却施設からの放射性物質の放出
3-3-3.物流・交通機関による放射性物質の運搬と集積
3-4.東京圏住民の健康危機の兆候は現れ始めている
3-4-1.がん発症の増加
3-4-2.白内障と眼科疾患の増加
3-4-3.住民とくに子供たちの健康状態の全般的悪化と免疫力の低下
3-5.精神科医の見た原発推進政策の病理
4.おわりに
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